仙台高等裁判所 昭和35年(う)644号 判決 1961年3月16日
被告人 中村ミキ 外一名
主文
本件各控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中各六〇日を各本刑に算入する。
理由
(弁護人の控訴趣意一について)
盗犯等の防止及び処分に関する法律二条に規定する常習特殊窃盗の罪は反覆して同条所定の方法による窃盗をなす習癖の発現たる窃盗の行為を構成要件とし、その行為の数如何にかかわらず単純一罪を構成するものであるから、原判決が犯行の始期及び終期を示し、犯行場所中一箇所を掲げ外延七四店舗と表示したほか、所論のごとく被害者の氏名、被害品名を逐一詳細に判示することなく、被害者中一名の氏名を挙げ外延約七四名、被害品中羽二重布団皮一枚のみを明らかにし外約二四二点と判示しても、右罪の事実摘示として何ら欠くところはなく原判決には所論のごとき理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。
次に職権で調査するに、盗犯等の防止及び処分に関する法律第二条の常習特殊窃盗罪の規定は、同条所定の危険な方法による窃盗の常習者をとくに重く処罰する趣旨のものであるから、同条二号の「二人以上現場において共同して犯したとき」に、いわゆる「共同」とは、共謀者中二人以上の者が現場において、窃盗の実行行為に出た以上、他の者は現にその実行行為をしない場合をも含むけれども、少くとも、共謀者中二人は各自その実行行為を分担することを要するものと解すべきところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人両名は常習として共謀のうえ、昭和三五年二月二五日ころから同年七月一六日ころまで約三四回に亘り釜石市浜町二丁目一及新デパート外延三三店舗において、犯行現場に臨み、各自夫々同時に同一被害者の管理する商品を万引する方法により実行行為を分担して、谷沢茂市外延約三三名の管理する絞り羽二重布団皮一枚外約一七二点を窃取したことが認められる(中略)ので、右事実は前記法律第二条二号の常習特殊窃盗の罪に該当すること明らかである。しかして、右証拠によれば、右のほか、被告人両名が共謀のうえ同三五年二月末ころから同年七月一六日ころまで約三一回に亘り釜石市只越二丁目一七シラト洋品店外延三〇店舗において白土勉外延約三〇名の管理する鉄色女物平ズボン一本外約七〇点を窃したことは認められるけれども事実関係は、(中略)右前記の場合と異り、被告人中一名が右窃盗をなすに際し、取、他の者がその幕となる等の所為に出たにすぎず、被告人ら各自が現に窃盗の実行行為を分担したわけではない。しかるに、原判決が右事実を含め、被告人らの本件窃盗の事実を前掲法律第二条二号の常習特殊窃盗の事実と認定したのは、結局右法条にいわゆる「共同」の解釈を誤つた結果事実を誤認したものといわざるを得ないけれども、前段認定の窃盗の事実のみで右常習特殊窃盗の罪の成立を認めるに十分であるのみならず、右単純窃盗の所為も常習として犯されたことが明らかである以上、これと前記常習特殊窃盗の所為とは全体として常習特殊窃盗の一罪として処断すべきものと解すべきであるし、犯情においても彼此軽重を認め得ないので、右誤は未だ判決に影響を及ぼすこと明らかとは認め難く、原判決を破棄する理由とはならない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判官 籠倉正治 斎藤勝雄 岡本二郎)